デジタルサイネージの誕生と市場の拡大
デジタルサイネージの始まりは1970年代のアメリカと言われています。日本では少し遅れて新宿のアルタビジョンなどが設置されたのが始まりです。当時はデジタルサイネージという言葉は存在していませんでした。
デジタルサイネージの誕生には、インターネットの普及が大きく起因しています。1995年が日本のインターネット元年とされていますが、それから爆発的な成長を遂げ、今ではほとんどの人がインターネットを利用する事になっています。
デジタルサイネージの本質的な意味は、「通信を利用して広告や情報を映像表示するシステム」です。デジタルサイネージ市場はまさに、インターネットの誕生と成長の流れに沿って拡大してきました。2000年代初頭よりデジタルサイネージの導入がスタートし、徐々に市場が拡大されてきました。
デジタルサイネージ市場の成長
デジタルサイネージ市場は、①映像表示機器やシステムの構築、②配信コンテンツの制作やサービス、③デジタルサイネージによる広告、の3要素から成り立っています。デジタルサイネージは2015年頃から急速に導入されるようになり、現在に至ります。
ここでは日本国内におけるデジタルサイネージ市場規模の成長について説明します。なお、文中の市場規模の数字については、株式会社富士キメラ総研の市場調査資料を元に記載しています。
2021年のデジタルサイネージ市場規模は約1823億円
デジタルサイネージは主に東京や大阪などの大都市部や、地方の主要都市をメインに設置が進みました。2021年のデジタルサイネージ市場は約1823億円となりました。①については2015年に比較して約150%UPの898億円となり、②が355億円、③については570億円に成長しました。
2015年は①と、②と③の合計がほぼ同じだったのに対し、2021年は①(898億円)よりも、②と③の合計(925億円)が特筆すべき点です。デジタルサイネージ用のビジョン設置が増えてきたことにより、コンテンツや広告に対する需要が増し、ハードよりもコンテンツや広告部分の市場が拡大しています。
2023年のデジタルサイネージ市場規模は約2200億円
過去のデータを元に予測をすると、2023年のデジタルサイネージ市場は2200億円になると予想されています。①については1000億円を超え、②と③についても合計で1000億円強となっています。
デジタルサイネージは東京オリンピック開催に向けて、大都市部を中心に整備が進んでいました。その後は地方の中核都市や店舗への設置も進み出し、ハードの整備に対する割合が盛り返してきた傾向があります。大都市部のデジタルサイネージは、すでに設置されるべき場所に設置されているイメージが強く、今後は地方都市への導入が進んでいくと予測されます。
2027年のデジタルサイネージ市場規模は3000億円を突破すると予測
右肩上がりで成長し続けるデジタルサイネージ市場ですが、2027年には3000億円以上の市場規模になると予測されています。機器の新規増設や経年劣化による交換が増えること、デジタルサイネージ広告の需要が一層増していく傾向にあります。
デジタルサイネージ市場規模のおさらいと今後の予測をグラフ化
デジタルサイネージの市場規模は2023年現在、2000億円強となっており、2015年から比較すると2倍の拡大となっています。また、2027年にはさらに成長をし、現在の約1.5倍(3000億円)になると予測されています。
デジタルサイネージの市場が拡大される理由
デジタルサイネージが普及しだした当初は、金融機関や駅や空港などの交通機関への導入がメインで、高い導入シェアを誇っていました。一般企業や店舗などにはまだデジタルサイネージが認知されていない時代のことです。
以降は一般的にもネットワークの整備が進み、機材やシステムのローコスト化が進みました。そうすることで一般施設や教育機関などでも注目をされるようになり、現在では幅広い分野で導入が進んでいます。
デジタルサイネージの導入が進む理由①リアルタイムに映像の変更ができる
デジタルサイネージの導入が進む一番の理由は、映像の変更が手軽に行えることです。アナログ看板は内容の変更をする場合に、どうしても時間とコストがかかってしまいます。デジタルサイネージは初期導入コストがかかることはネックですが、以後のコンテンツ変更をスピーディに行えることがメリットです。
また、タイムスケジュールを組んで映像を交互に流したり、スポットで広告を流すこともできます。フレキシブルに流す映像を変更できるところが最大のメリットで、同じビジョンでありながら表示内容を変えつつ様々な情報配信ができるのです。
デジタルサイネージの導入が進む理由②明るく見えやすい画面と動きのあるコンテンツ表示ができる
デジタルサイネージの魅力はスピーディなコンテンツ変更だけではありません。従来の看板やポスターでは不可能な「動きのあるコンテンツ」を表示できることです。要するに動画やスライドショーを表示することで、様々な情報を提供できるということです。
また、画面に動きを持たせるということは人々の注目を集めやすくなります。人の目線は動きのあるものに注目するという特徴があります。単なる看板だと風景の一部としか捉えられず、目に入ってくることはあまりありません。動きのあるコンテンツを表示することで画面を見てもらえる可能性が高くなるのです。
日中や夜間も視認性が高いこともデジタルサイネージが重宝される理由のひとつです。一日中視認性の高い映像を流せることで、一般的な看板やポスターと比べて訴求力が高くなります。
デジタルサイネージの導入が進む理由③コスト的ハードルが低くなった
デジタルサイネージの市場規模が拡大しているのに大きく関わるのが、機材やシステムのローコスト化です。画面の大小に関わらず、近年ではテナント店舗や個人商店などでもデジタルサイネージを目にすることが多くなりました。
デジタルサイネージの機材やシステムが当初よりもコストダウンしており、初期導入費用がかなり抑えられるようになったことも要因です。
デジタルサイネージの導入が進む理由④操作や運用の簡素化が進んだ
デジタルサイネージという言葉を聞くと、未だになんとなく難しそう…というイメージを持つ方も少なくないのではないでしょうか?実はデジタルサイネージが普及している理由のひとつに、操作がとても簡単になったということがあります。
デジタルサイネージの本質は「通信を伴う映像配信」ではありますが、近年では通信を行わないもの(USBやSDカード等を利用したコンテンツ配信)もデジタルサイネージと呼ばれるようになり、個人でも簡単にデジタルサイネージを利用することが可能になりました。
デジタルサイネージをローカル運用することでランニングコストがかかることもなく、かつ操作も簡単になったことで小さな店舗や施設でも導入に対するハードルが下がりました。
デジタルサイネージの分野別設置シェア
様々な分野で導入が進むデジタルサイネージですが、一体どのような分野で導入が進んでいるのでしょうか?富士キメラ総研の調査データを元に主なデジタルサイネージの設置分野を解説していきます。
デジタルサイネージが導入される分野①商業施設や店舗(広告)
スーパーや百貨店、コンビニ、ファーストフード店などの店舗では、主に商品やサービスの広告を流すためのデジタルサイネージが設置されています。2023年現在で店舗におけるデジタルサイネージディスプレイの導入台数は、40万台を超すという統計が出ています。ただしこの数字は限られた業種に絞られたものであり、実数はこれを遥かに上回るものになるでしょう。
デジタルサイネージが導入される分野の中でも商業施設は圧倒的に高い割合を占めており、デジタルサイネージが導入される目的の多くは広告配信ということになるでしょう。導入費用に対して高い効果が得られるという裏付けがあるからこそ、デジタルサイネージの設置が進んでいると言えます。
デジタルサイネージが導入される分野②交通機関
駅や空港、バスやタクシーなど、交通機関もデジタルサイネージが多く活躍する分野です。あまり気にしていないので普段は気づきにくいですが、主要駅や空港の時刻表はそのほとんどがデジタルサイネージ化されています。
また、電車内にも画面が設置されて次の停車駅や開くドアの方向なども教えてくれます。タクシーではシートの正面に小型のディスプレイが設置されて、そこには広告映像が流れています。
交通機関におけるデジタルサイネージ機器の導入台数は、2023年時点で36万台というデータがあります。コロナ禍が終息したことにより、インバウンドに対する需要も大きくなっており、今後も交通機関でのデジタルサイネージ規模は拡大されていくことが予想されています。
デジタルサイネージが導入される分野③金融機関
銀行や郵便局、証券会社などの金融機関もデジタルサイネージの設置が進んでいます。店舗や交通機関は人がたくさん集まる場所で、広範囲に広告や情報を提供するということが目的です。しかし金融機関の場合は、若干理論が異なります。
皆さんは金融機関に赴くとき、かなり待合で待たされた経験がないでしょうか?待合には画面が設置されていて、そこに広告やテレビ番組が流れていたり、呼出番号が表示されたり…。それが金融機関のデジタルサイネージなのです。
金融機関に来るお客さんは目的がはっきりとしていて、かつ一定の待ち時間が発生します。そのため流すコンテンツの絞り込みが容易であること、画面を見てもらえる確率が高くなるためデジタルサイネージの価値が上がるのです。金融機関では現在合計で約82,500台のデジタルサイネージが設置されています。
デジタルサイネージが導入される分野④レジャー・アミューズメント施設
パチンコ店やカラオケボックス、映画館などのアミューズメント施設にもデジタルサイネージが設置されています。その総台数は16万台と言われています。しかしながらレジャーやアミューズメント産業は全体的に縮小傾向にあり、それに伴いデジタルサイネージの市場規模としても成長率は高くはありません。
今後においては新設や増設よりも、既存のデジタルサイネージにおけるメンテナンスや交換の割合が高くなると予想されます。
デジタルサイネージが導入される分野⑤一般企業や学校施設
2023年現在、一般企業では受付やショールームなどに約20万台、オフィスや工場にも約20万台の合計40万台ほどのデジタルサイネージが設置されています。学校施設には約2万台ほどのデジタルサイネージが導入されています。
企業や学校にデジタルサイネージが設置される目的は、業務や授業の効率化です。近年、デジタルサイネージ市場で注目される分野であり、今後も成長を続けるであろうと予想されます。
一例を上げるとプロジェクターの代わりとなる大画面の導入が進んでいることです。会議や講義をデジタルサイネージで行うことで、プロジェクターにはない視認性を得ることができ、高い理解度につながるという事例があります。
小中学校や学習塾においても授業のデジタル化が進んでおり、今後においてもデジタルサイネージの導入が進んでいく分野のひとつです。
デジタルサイネージ市場の未来を予測
日本国内におけるデジタルサイネージは大都市部には設置が進んでおり、今後新たなデジタルサイネージが設置されることは少なくなるでしょう。しかしながらメンテナンス業務やコンテンツンツに関する需要は残り、緩やかな成長傾向になると予想されます。故障や経年劣化による機器の入れ替えも多く生じるでしょう。
地方都市にはまだまだ導入が進んでいない地域が多く、新規導入という意味では地方都市での市場が開拓されていくでしょう。以後数年間では大阪万博に向けて、関西地区でのデジタルサイネージ整備が進んでいくとも言われています。よってしばらくの間はデジタルサイネージ市場は成長し続ける予測が立っています。
デジタルサイネージの機器(画面)に関してはまだまだ新規導入が増える傾向にありますが、いずれは頭打ちをする時期が来るでしょう。しかしながら自動車や一般家電と同じで、いずれは機器を交換する時期が来るため、ハードに対する一定の需要は継続的に発生することと予測されます。
コンテンツ制作や広告需要も基本的にはハードの設置台数に応じて、今後もしばらくは成長傾向にあります。しかしながらデジタルサイネージの台数が増えれば、コンテンツや広告に関する単価が下がってくることが予測されます。
今後10年前後は成長傾向は続くでしょうが、その後はもしかしたらデジタルサイネージに代わる新しい技術が注目され出すかもしれません。
<出典:富士キメラ総研「デジタルサイネージ市場総調査 2023」>
https://www.fcr.co.jp/report/232q10.htm